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浦和地方裁判所 昭和55年(行ウ)20号 判決

原告 藤波運輸有限会社

被告 埼玉県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「原告が昭和五五年一〇月二日届け出た一般区域貨物自動車運送事業の事業計画変更(使用車両の代替)届に対し、被告が同年一一月一日行つた不受理処分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告――請求原因

1  原告は、道路運送法(以下単に「法」という。)三条二項五号の一般区域貨物自動車運送事業の免許を受け(原告は、昭和四三年一一月一三日東京陸運局長より、一般小型貨物自動車運送事業の免許を受けたが、同免許は、昭和四六年六月一日の法改正にともなつて一般区域貨物自動車運送事業の免許となつた。)、昭和四三年一二月以来肩書地において、一般貨物の運送事業を営んでいる。

2  原告は、需給変動の激しい貨物運送事業の経営を安定させるべく、人口の急激な増加にともなつて死亡する者の数も増加している原告会社所在地の草加市及びその周辺の八潮、吉川、三郷の各市、町の地域における霊柩自動車運送事業の経営を計画し、従来運送事業に使用してきた普通自動車一台を、霊柩自動車一台に代替するため、昭和五五年一〇月二日、被告に対し、法一八条一項但書、同条三項、一二二条一号、道路運送法施行令(以下単に「施行令」という。)四条三項一号、道路運送法施行規則(以下単に「施行規則」という。)一四条一項四号に基づき、一般区域貸物自動車運送事業計画変更届を行つたところ、被告は、同年一一月一日、原告の右事業計画変更は、法一八条一項但書には該当しないとの理由でその受理を拒否する行政処分を行つた。

3  しかし、一般自動車運送事業において、事業用自動車の種別を変更することは、右法令の規定するとおり、事業計画の変更認可を要しない軽微な事項にあたること明らかであるから、原告の前記事業計画変更(使用車両の代替)届の受理を拒否した被告の処分は違法である。

よつて、原告は、被告の右処分の取消しを求める。

二  被告――請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告が被告に対し、昭和五五年一〇月二日、原告主張の一般区域貨物自動車運送事業計画変更届を提出し、被告は、同年一一月一日原告主張のとおりその受理を拒否する処分を行つたことは認めるが、その余は知らない。

3  同3の主張は争う。

三  被告――その余の主張

1  原告が計画している事業計画の変更は、一般区域貨物自動車運送事業のために使用している車両を減車して、これを霊柩自動車運送事業用の車両に変更することによつて霊柩自動車運送事業の経営を開始しようとするものである。しかしながら、法一八条一項但書、同条三項、施行規則一四条一項四号の事業計画の変更に際し、届出を行うのみで、主務官長の認可を要しない軽微な事項の一つの場合として掲げられている「種別ごとの数」の変更とは、すでに当該事業の免許を受けている一般自動車運送事業者が従来から当該事業用の車両として使用してきた車両を例えば老朽化又は事故等の原因で廃車し、その車両の代替を行う等の場合をいうのであつて、一般区域貨物自動車運送事業の免許しか有しておらず、霊柩自動車運送事業の免許を受けていない原告にあつては、車種変更の届出のみによつて霊柩自動車運送事業を行うことはできない。

2  道路運送法上、一般自動車運送事業のうち、貨物自動車運送事業としては法三条二項四号の一般路線貨物自動車運送事業と同条同項五号の一般区域貨物自動車運送事業の二事業のみが規定されているが、一般区域貨物自動車運送事業の中には、霊柩自動車運送事業とそれを除いたいわゆる区域事業の二種類の事業が含まれており、右二種類の事業を営もうとする場合には、それぞれ別個の事業免許を受けなければならない。従つて、一般区域貨物自動車運送事業の免許を受けている一般自動車運送事業者であつても、霊柩自動車運送事業を営む場合には、右免許とは別に霊柩自動車運送事業の免許を取得する必要があることになるが、それは次の理由による。

(一) 霊柩自動車運送事業は、

(1)運送する貨物が死者を葬むる儀式にともなう遺体という特殊なものであること、(2)我が国の平均寿命が年々伸びていることからその輸送需要が急激に増大するということはほとんど考えられないこと、(3)運送する貨物の特殊性から輸送区間が葬儀場、火葬場、病院等の比較的狭い範囲に限られているので、いわゆる区域事業と異なり最小行政区域を単位とする地域においてその需給調整を行う必要があること(いわゆる区域事業にあつては、都道府県を単位として法六条の免許基準により需給調整を行つている。)、(4)輸送に用いる車両が高級堅木等を使用した彫刻、絵画、金具飾、漆塗装による工芸装飾等の特殊な装置を施した専用車両であること、(5)いわゆる区域事業における運賃、料金とは異なる別建運賃、料金が定められ、それが認可されている(この運賃、料金は霊柩自動車運送事業を営む事業者に限つて認可されている。)こと等から昭和一五年ころより一貫していわゆる区域事業とは別個の運送事業として取り扱われてきた。

(二) 右のように、一般区域貨物自動車運送事業と霊柩自動車運送事業とは別個の事業として取り扱われてきたので、運輸省においても霊柩自動車運送事業については、一般区域貨物自動車運送事業とは別途に免許等に関する通達等を発して事務を処理してきた。従って、一般区域貨物自動車運送事業の免許がなされる際、とくに運送品目から霊柩を除くという限定が明示されていなくても、右免許においては運送品目から霊柩が除かれるという取扱いがなされていることについては、貨物自動車運送事業者の間では衆知されていた。このことは一般区域貨物自動車運送事業を営む事業者は、一般路線貨物自動車運送事業者とともに、原則として都道府県を地区の単位とする貨物自動車運送事業者からなる都道府県トラック協会を通じて社団法人全日本トラック協会に加入しているのに対し、霊柩自動車運送事業を営む事業者は、各都道府県ごとに組織されている支部を会員とする社団法人全国霊柩自動車協会を通じて社団法人全日本トラック協会に加入していることからしても明白である。

3  仮に、一般区域貨物自動車運送事業の免許を受けた貨物自動車運送事業者が、事業計画変更届出のみによつて霊柩自動車運送事業に参入することが許されるとするならば、新規の事業免許(法四条)あるいは事業計画変更の認可(法一八条一項本文)の際の法六条、一八条二項所定の審査基準が適用されないために、主務官庁としては、霊柩自動車運送事業における需給調整を行うことができないこととなり、ひいては法一条の目的とする道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保することができず、公共の福祉を阻害するとともに新規に霊柩自動車運送事業の免許申請を行つた者に対する扱いと均衡を失する結果となる。

4  従つて、原告主張の事業計画の変更は、法一八一項但書の軽微な事項に当たらないから、被告の行つた本件不受理処分は適法である。

四  原告――被告の主張に対する認否

1  被告主張三1のうち、原告が計画している事業計画変更の内容が、被告主張のとおりであることは認めるが、原告が一般区域貨物自動車運送事業の免許しか有しておらず、霊柩自動車運送事業の免許を受けていないとの点は否認する。その主張は争う。

2  同2のうち、一般区域貨物自動車運送事業の免許がなされる際、とくに運送品目から霊柩を除くという限定が明示されていなくても、右免許においては運送品目から霊柩を除く取扱いが行われていることにつき貨物自動車運送事業者の間では衆知されていたとの点は否認する。運輸省が霊柩自動車運送事業につき被告主張の通達等を発して事務を処理してきたとの点は知らない。その主張は争う。道路運送法上の一般自動車運送事業のうち、貨物自動車運送事業には、一般路線貨物自動車運送事業と一般区域貨物自動車運送事業の二種類の事業が存するのみであつて、右の他に霊柩自動車運送事業が存在するという法律上の根拠はない。しかも一般区域貨物自動車運送事業において、運送する貨物その他の業務の範囲には原則として限定がない。ただ例外的に、当該免許において、運送する貨物その他の業務の範囲が限定されている場合(法四条三項)に限り、当該事業者は、その限定を越えて貨物自動車運送事業を営むことができないのである。しかるに、原告が受けている免許は、何らの限定を加えられていない一般区域貨物自動車運送事業の免許であるから、同免許を受けていれば霊柩自動車運送事業を営むことができるのであつて、これを制限する法律上の根拠は存在しない。現に、千葉県富津市内に営業所を有する貨物自動車運送事業の中には、一般区域貨物自動車運送事業の免許を受けているだけであるのに霊柩の運送にかかる運賃、料金の認可を受け、霊柩自動車運送事業を営んでいる者も存在する。一般区域貨物自動車運送事業の中にはいわゆる区域事業と霊柩自動車運送事業の二つの事業があり、右各事業を営むには、それぞれにつき別個の免許を受ける必要があるから原告が受けた一般区域貨物自動車運送事業の免許のみでは霊柩自動車運送事業を営むことはできないとの被告の主張は新たな立法措置によらずして、原告の有する営業の権利を制限するものであつて憲法九七条、九八条一項の原則に違反する。

3  同3の主張は争う。一般自動車運送事業における需給のバランス等の審査は、免許を行うにあたつてなさるべきものであつて、一旦免許が与えられた後は、事業者間の自由公平な競争の結果によらざるを得ない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告は、法三条二項五号の一般区域貨物自動車運送事業の免許を受け(原告が昭和四三年一一月一三日東京陸運局長から受けた免許は一般小型貨物自動車運送事業免許であつたが、同免許は昭和四六年六月一日の法改正にともなつて一般区域貨物自動車運送事業の免許となつた。)、昭和四三年一二月以来肩書地において一般貨物の運送事業を営んでいる者であるが、霊柩自動車運送事業の経営を開始すべく、昭和五五年一〇月二日被告に対し、法一八条一項但書、同条三項、一二二条一号、施行令四条三項一号、施行規則一四条一項四号に基づき、従来運送事業に使用してきた普通自動車一台を霊柩自動車に代替する旨の一般区域貨物自動車運送事業計画変更届を提出したところ、被告は同年一一月一日原告の右事業計画変更は法一八条一項但書には該当しないとの理由で右届出の受理を拒否する処分を行つた。

以上の事実は、当事者間に争いがない。

二  ところで、法一八条一項但書、同条三項、施行規則一四条一項四号にいう事業計画変更のうちで事業者が被告(法一二二条一号、施行令四条三項一号)に届出をするだけで認可を要しない軽微な事項とは、法一八条一項本文、二項、六条の趣旨及び施行規則一四条一項各号の列記事項を総合して考えると、免許もしくは認可を受けた際に主務官庁の審査の対象となつた事業計画の内容に実質的な変更のない事項即ち当該事業計画の変更によつて主務官庁が当該事業に関する新たな需給調整等の審査を行う必要のない軽微な事項をいうのであつて、主務官庁の審査対象となつた事業計画に実質的な変更が生じるような場合には、たとえその変更の形式が届出のみで足りる事項であつても法一八条一項但書、同条三項によつて事業計画の変更を行うことはできないものと解するのが相当である。けだし、当該事業計画の内容に実質的な変更が生じる場合にも、たまたま変更の形式、外観が届出で足りる事項に当るというだけで事業計画の変更について主務官庁の審査を要しないとするならば、主務官庁はそれによつて生ずるであろう当該事業の需給調整等の必要性を審査することができなくなり法一八条一項本文、二項、六条、八条などの趣旨が没却されてしまうと解されるからである。

これを本件についてみると、前示一の事実にいずれも成立に争いのない甲第一、第二号証、第一〇号証原本の存在成立に争いのない乙第七号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告が主務官庁から免許もしくは認可を受けた際の事業計画は、霊柩自動車運送事業以外の一般区域貨物自動車運送事業であり、原告は従来から右事業計画に基づき貨物自動車運送事業を営んできたところ、右事業計画を実質的に変更して従来の事業のほかに霊柩自動車運送事業を経営しようとするものであると認められ、これに反する証拠はない。そうすると、原告の計画している事業計画の変更は、従来使用していた事業用車両を一台廃車してその代わりとして別の種類の車両を使用するという点だけからみれば、施行規則一四条一項四号にいう事業用自動車の種別ごとの数の変更に当るが、右変更の実質は、新たに霊柩自動車運送事業をも開始する旨の事業計画の変更であるといえるから、右事業を営むために新たな免許を受けなければならないか否かはともかくとして、少なくとも法一八条一項但書にいう軽微な事項に係る変更ということはできないものというべきである。

従つて、原告の本件事業計画変更の届出が法一八条一項但書の軽微な事項に係る変更に当らないことを理由にその受理を拒否した被告の処分は適法であるといわなければならない。

三  よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高山晨 野田武明 友田和昭)

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